はじめに
1945年、国連憲章では基本的人権の尊重が確認され、1948年の世界人権宣言では基本的人権のリストが具体的に提示されました。しかし、当時、米ソ冷戦中で、自由権を重視するか社会権を重視するか等の点で、人権についての理解や評価は分裂していました。
しかし、1989年に米ソ冷戦が終結し、1991年にソ連が解体しました。1993年、国連の世界人権会議では、「ウィーン宣言及び行動計画」が採択され、人権の普遍性が再確認されました。
http://www.ohchr.org/EN/ProfessionalInterest/Pages/Vienna.aspx
しかし、人権をめぐる問題は解決された訳ではありません。ここでは人権をめぐる問題群を、中山竜一「人権」(『岩波社会思想事典』岩波書店、2008年)を基に整理します。
人権の正しさをめぐる問題
人権の正当化の試みは幾つかあります。
①ジョン・ロールズの社会契約論・・・正義論を基礎とするリベラルな諸国とイスラーム諸国のような“decent”な諸国は、共に人権を社会の共通善追求の為に保障している。
②ドネリーの構成主義・・・人権は既に社会の一部になっている。
③マーサ・ヌスバウムのケイパビリティ・アプローチ・・・「人間」が「人間」であり続ける為の最低限のケイパビリティ(「人間の閾値」)。
④リチャード・ローティ・・・理性ではく、他人の痛みを自分のことのように思う感情。
⑤マイケル・イグナティエフ・・・恐怖や残酷さの回避。
他の人権をめぐる問題群
①経済的社会的人権と市民的政治的人権の衝突の調整や整序を巡る問題。
②憲法上の人権、国際法上の人権、思想としての人権をどう捉えるかという制度理解を巡る問題。
③「伝統文化」の尊重が同時に人権侵害を引き起こすような場合、民族やマイノリティの文化的自律と人権との関係をどう捉えるべきかという多文化主義をめぐる問題。
④世界人権会議でも問題になった、発展途上国の「発展の権利」の承認をめぐる問題。
⑤国家と市場の制度設計をめぐる問題。
⑥科学技術の発展による「人間の尊厳」をめぐる問題。
⑦人権侵害を阻止する為の戦争が、逆に深刻な人権侵害を引き起こす「正義の戦争=正戦」をめぐる問題。
⑧豊かな国は貧しい国をどこまで支援する必要があるかという、国際的正義あるいは世界的正義をめぐる問題。
おわりに
普段は「人権」を余り意識しないかも知れません。それには二つの可能性があります。第一に、人権が相対的に保障されていること。第二に、人権について良く知らないこと。実際、20%以上の日本国民は日本国憲法や国際人権法で、人権が保障されていることを知らないと言われています。実際、日本国内にも深刻な人権侵害に直面している人はいると思います。中山竜一氏も、「人権が最も必要とされるのは、それが最も侵害されている時と場所である」と言います。そうすると必要なことは、人権について良く理解することと、人権侵害に苦しむ人々の痛みに思いを致す想像力だと思います。