人権と文化的多様性

はじめに

国連の世界人権宣言の「人間」観は、理性、良心、友愛の精神を持つ存在です。その「人間」観は、西洋近代の啓蒙主義に起源があります。

はじめに 現代世界の正義の核の一つは人権です。人権は近代の市民革命の理念である「自由、平等、友愛」を結晶化したものです。正義の基礎としての...

他方で、2001年にユネスコは第31回総会で「文化的多様性に関する世界宣言( Universal Declaration on Cultural Diversity)」を満場一致で採択しました。ユネスコで勤務していた服部英二先生によれば、同宣言は「多くの代表が「世界人権宣言に次ぐ重要性をもつ」と評価したもの」です(服部英二「文化の多様性に関する世界宣言と未来世代の権利―コミュニティとの関連において」)

しかし、服部先生も人権と文化的多様性の関係は明らかにしていません。そこで両者の関係を文化的多様性に関する世界宣言を手掛かりに考えます。

文化的多様性

まず「文化的多様性」とは何か、同宣言第1条「文化的多様性」を基に確認します。

the common heritage of humanity Culture takes diverse forms across time and space. This diversity is embodied in the uniqueness and plurality of the identities of the groups and societies making up humankind. As a source of exchange, innovation and creativity, cultural diversity is as necessary for humankind as biodiversity is for nature. In this sense, it is the common heritage of humanity and should be recognized and affirmed for the benefit of present and future generations.

http://unesdoc.unesco.org/images/0012/001271/127162e.pdf

http://www.mext.go.jp/unesco/009/1386517.htm

まず「人類/人間性/人道文化( humanity Culture)」の共通「遺産/天性/運命(heritage)」は、時空を超えて多様な形態を取るとされます。次にこの多様性は、「人類(humankind)」を形成する集団や社会のアイデンティティのユニークさや多元性によって作られているとされます。第三に文化的多様性は、自然にとって「生物多様性(biodiversity)」が必要な様に、人間にとっても必要であるとされます。第四に、この意味で文化的多様性は「人類/人間性/人道(humanity )」の共通遺産であり、現在世代と未来世代の利益の為に「承認(recognized )」され肯定されるべきであるとされます。

人権と文化的多様性

人権と文化的多様性の関係は、同宣言第4条「文化的多様性の保障としての人権」で規定されています。

The defence of cultural diversity is an ethical imperative, inseparable from respect for human dignity. It implies a commitment to human rights and fundamental freedoms, in particular the rights of persons belonging to minorities and those of indigenous peoples. No one may invoke cultural diversity to infringe upon human rights guaranteed by international law, nor to limit their scope.

まず 文化的多様性の保護は、人間の尊厳へのリスペクトと不可分の倫理的急務であるとされます。次に文化的多様性の保護とは、人権と基本的自由、特に「少数者/少数派/少数民族(minorities)」や「土着的な原住民=先住民(indigenous peoples)」の諸権利へのコミットメントを意味するとされます。第三に、誰も国際法によって保障された人権を蹂躙したりその範囲を制限する為に、文化的多様性を(に)「引き合いに出す/加護を祈る/訴える/切願する/呼び出す(invoke)」べきではないとされます。以上から文化的多様性は人権と両立するものと考えられていることが確認出来ます。

おわりに

ユネスコの文化的多様性に関する世界宣言でも、「文化的多様性」を国際法で保障された人権の蹂躙を正当化する為に使用してはいけないとされています。しかし、人権が特定の時空で形成された「人間」観を前提にしている点はスルーされています。スルーされたこの点を重視すれば、ユネスコが言う文化的多様性も「西洋近代文明」に収斂される可能性があるかも知れません。

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